DEATH STRANDING The Ones - KOJIMA PRODUCTIONS

世界的ゲーム『DEATH STRANDING』の没入体験を支える The Onesシリーズ - KOJIMA PRODUCTIONS
KOJIMA PRODUCTIONS2019DEATH STRANDING2025DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH2,700MAGenelec7.1.4ch

 

MA

2015年に創立したKOJIMA PRODUCTIONSは、翌年にオフィスを品川駅からほど近い商業ビルに移転。その後、2022年に同ビルの別フロアに移ったタイミングでつくることになったのがこのMAスタジオです。以降、2025年にローンチした『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』をはじめとした作品のサウンドを司る当拠点のモニター環境が果たす役割などについて、同社のサウンド・デザイナー中山啓之氏、レコーディング・エンジニアの永井将矢氏にお話を伺いました。

KOJIMA PRODUCTIONS

▲KOJIMA PRODUCTIONSのサウンド・デザイナー中山啓之氏(左)とレコーディング・エンジニアの永井将矢氏(右)

 

中山 「弊社では映画俳優や関係スタッフなど海外からのゲストが多いこともあり、いわゆるMAスタジオとしての機能だけでなく、試写室やプレゼンルームも兼ねるものにしようというコンセプトも計画に含まれていました」

居心地のいい広々とした印象のコントロール・ルーム。ただ、設計から施工に至る過程では難航する場面もあったそうです。

中山 「商業ビルの中の施設ということで、消防法による規制や空調設備の配置などにも大きく影響を受け、試行錯誤もありました。そのあたりは、音響設計を担当されたSONAさんをはじめ、ビルの管理会社や建設会社の方々と調整させていただきながら進めていきました」

永井 「Dolby Atmosに対応する7.1.4chはある程度の高さが必要ですが、空調のダクトを避けなければならなかったり、設計の段階でかなり時間をかけました。また、重量制限などの制約は、機材選びにも影響しています」

 

7.1.4ch

150インチ・スクリーンの奥に埋め込まれたL-C-R以外のスピーカーは、天井にしつらえたリング状の部分から床に伸びるラインに設置されていて、どこか宇宙船の内部を思わせる厳かな雰囲気を醸しています。天井や壁面に見られる無数の孔は反射を調整するための拡散板として機能するとともに、視覚的なアクセントにもなっているようです。

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▲『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』の1シーンを映した150インチ・スクリーン。その奥には8361A(L-C-R)と4台の7370A(サブウーファー)が配置されている

 

永井 「この拡散板もSONAさんにご提案いただいたもので、孔のパターンも計算した上ではめ込んでいるそうです。パターンはランダムに見えますが、実は部屋の中では左右対称になっています。これは空間全体の響きや特性が左右対称で揃っていることの表れで、部屋のウリのひとつでもあります」

中山 「現在は7.1.4chというスピーカー構成ですが、将来的にはハイトも含めて20ch以上に拡張することが可能で、そのための配線も施しています。壁の調音パネルの特定の場所がスタンドを兼ねており、パネルを外すことでスピーカーを増設できるような作りになっています」

いまやゲームもイマーシブ・オーディオと親和性の高いコンテンツのひとつ。全編を通じてDolby Atmosに対応する『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』も、7.1.4chが組まれたこのスタジオで制作されました。

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▲SF感が漂うコントロール・ルームはGenelecで構成された7.1.4ch

 

ゲームも映画も、映像情報と共に音を扱うという点では同じですが、サウンド作りにおいては重きを置くポイントが変わってくるようです。

永井 「ゲームでは、その世界に参加するプレイヤーが実際にいるので、特に重視しているのが情報伝達です。どこに何がいるのかとか、そういったポジショニングが非常に大事で、後ろにあるものもちゃんと鳴らさなければなりません。映画では、間近に来ているものをあえて聴こえさせず、しかるべきタイミングで音を上げて存在を意識させるという演出もありますが、ゲームの場合は演出だけでなくプレイに必要な情報はちゃんと聴かせなければならない。そういうミックスの違いはありますね」

KOJIMA PRODUCTIONSが手掛ける『DEATH STRANDING』シリーズなど実写のような精緻なグラフィックが描かれるゲームには、プレイヤーが操作している場面(インゲーム)と、映画のような演出場面(カットシーン)が混在します。そうしたシーンの転換とサウンドはどう関係するのでしょうか。

中山 「基本的には、インゲームとカットシーンで音の変化が感じられないように作っています。違いはあるのですが、そこを分からないようにシームレスに繋ぐというのがゲームならではのテクニックでしょうか」

永井 「カットシーンっぽい音を鳴らしておいて、インゲームの定位もしっかり聴こえるとか、それらを組み合わせたミックスという意識もありますね」

同じシーンでも、プレイヤーによって状況がまったく異なることもゲームの特殊性と言えます。

中山 「カットシーンも状況によって変化する部分があり、そこではインタラクティブにミックスを変えていくというゲームならではの細かい手法が用いられています。ユーザーそれぞれの状況を音としてしっかり聴かせるのは大変ではありますが、面白いところでもあると思います」

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KOJIMA PRODUCTIONSが生み出すタイトルにとって、非常にリアルな環境音が使われることもゲームの完成度を高める重要な要素です。オーストラリアなど海外の自然環境をフィールド録音したり、レコーディング・ブースにフォーリーのための設備を整えたり、ゲーム・タイトルの監督であり同社代表の小島秀夫氏をはじめ音響スタッフの皆さんの強いこだわりが、KOJIMA PRODUCTIONSのタイトルには注ぎ込まれています。

中山 「スタジオの近くで雷が鳴ると、急いでマイクを持って行って録音することも。それが実はゲームでも使われていたりします(笑)」

永井 「『DEATH STRANDING』では監督の想いもあって、すごく細かい音を付けています。砂塵がチリチリと舞う音、それがクルマの表面に当たる音−−−そんな微細な音もしっかりと聴けるモニター環境は必須で、スピーカーもそれが再現できるものでなければなりません」

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▲コントロール・ルームに隣接するレコーディング・ブースではGenelecのアクティブ・モニター8040Bを使用

 

Genelec

DAWのトラック数はカットシーンだけでも500以上、インゲームと合わせれば膨大な数に上るというゲームの音声。操作感・ビジュアルとともにサウンドが重要な要素であることがよく分かる事実です。これほどまでにこだわりを持って作り込むゲーム・サウンドのモニタリングにおいて核となるスタジオ・モニターにはGenelecが選ばれました。コントロール・ルームに導入されているのは、The Onesの8361Aと8351B、そしてサブウーファーの7370Aで構築された7.1.4chシステムです。ゲーム中に砂塵が舞うような微細な音も正確に再現する解像度の高さが選定理由のひとつとなったと永井氏は話しますが、そもそものスタジオ・モニターとしての完成度の高さに非常に満足しているようです。

永井 「以前勤めていたポスプロでもGenelecスピーカーを使っていたこともあり、ブランドに対する信頼性がありました。スタジオでは定番になっているGenelecは、音が変に尖らず、安心してモニターできるという印象がありますね。The Onesのような同軸モデルは定位もピッタリきているし、位相のズレがないので、安心してモニターできるのはメリットです。音の直進性と言うのでしょうか。GLMでど真ん中にフォーカスしていますが、そこをめがけてしっかりと定位してくれるのはすごいと思います」

中山 「Genelecのスピーカーは大きいものから小さいものまでサイズのバリエーションも豊富で、部屋に合ったモデルを選択できるのもいいですね。ここでは水平レイヤーの8361Aに加え、トップにはひとサイズ小さい8351Bを選択しましたが、それでも十分な音圧を稼げています。The Onesシリーズは部屋の規模に合わせたマルチチャンネルのプランを考えやすいというメリットもあり、今回の選択理由にもなっています」

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▲ハイト・チャンネルに配置された4台の8351B

 

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▲水平レイヤーは7台の8361Aで展開

 

永井 「この部屋ができて初めて聴いたとき、いまでも憶えているのは、定位がわかりやすく、音の動きもイメージしやすいモニターだと感じたことですね」

中山 「私の場合、最初のテスト試聴で印象的だったのは、映画館のような大きい音でも破綻せず、すべてのチャンネルがきれいに聴けることでした。ボリュームをどんどん上げていくと、うるさい音になりがちですが、Genelecは音の各帯域がきれいに耳に届くんです。サブウーファーを加えても曖昧にならず、ローを含めて音が迫ってくるのが分かり、"おお、すごい! "と思ったのを憶えています」

 

THX pm3

MAスタジオの入り口には、マルチチャンネル再生のためのスタジオ設計プログラムである「THX pm3」の認証プレートが掲げられていますが、ここにもKOJIMA PRODUCTIONSのこだわりが関係しているようです。

中山 「マルチチャンネルのモニター環境としての信頼度を高めるこの規格の認証には、1年ごとの継続審査が必要です。人間で言えば健康診断のようなもので、運用する中で生じうる、ちょっとした変化をチェックすることで最適なモニター環境を維持できると考えました。対外的なアピールだけでなく、我々が安心して制作できることに繋がるのも大きいですね」

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▲マルチチャンネル再生のクオリティを保証する「THX pm3」の認証プレート

 

自前のMAスタジオの運用が始まって3年あまり。スタッフの皆さんは、この環境が理想的なゲーム・サウンド制作の拠点となっていることに大きな手応えを感じているようです。

永井 「2023年の稼働開始から、このモニタリング・システムをフル活用しています。『DEATH STRANDING』シリーズは重い荷物を背負いながら広大な世界をひたすら歩くゲームですが、そこに出てくる様々な音が没入感を高めます。プレイヤーが無意識に聴いている音も、このモニターはしっかりと再生してくれます。また、カットシーンで映画的な迫力のあるサウンドをミックスするにも、Genelecのスピーカーで良かったと思っています。ある映画監督から、"このスタジオの音がいちばんいい"と言っていただけるなど、ゲストの皆さんからもご好評いただいています」

一方で、ゲームユーザーの音環境は千差万別。だからこそ、確固たる基準となるモニターが不可欠だと永井氏は語ります。

永井 「テレビのスピーカーなどに落とし込んだときにどう鳴るか。実際にその環境でチェックもしますが、ミックスはそれも予測しながら作ります。慣れもありますが、"この音ならいけるかな"というのを作りやすいスピーカーだと思います」

さらに中山氏は、7.1.4chでミックスするからこそのメリットも強く感じています。

中山 「先ほどお話ししたような風に舞う砂の音といった細かい音は、この環境と2chのスモール・スピーカーやヘッドホンでは聴こえ方が全然違います。風の音と砂の音など、細かい音の隙間に流れる音をどうきれいに聴かせるかといった調整も7.1.4chのほうがしやすいですし、それをステレオに落とし込んでも狙いどおりの音になっています。そういう感覚がちゃんと反映されるのもGenelecスピーカーのいいところだと思います」

 

Genelec

なお、同じフロアには2つのエディット・ルームがあり、Genelec 8331Aと7360A(サブウーファー)による7.1.4chと7.1chのスピーカー・システムを備えています。

中山 「使い方としては、エディット・ルームで作ったものをMAルームで聴くことが多いのですが、どちらもGenelecのThe Onesシリーズで揃えることで、一貫したモニター環境が保たれています」

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▲2つのエディット・ルームにも採用されているGenelec The Ones。この部屋では最もコンパクトな 8331Aを中心に7.1.4chを構築

 

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▲サブウーファーは7360A

 

GLM

コントロール・ルームとエディット・ルームを同じThe Onesシリーズで揃えたことに加え、両者を行き来しても正しい判断をすることをより可能としているのが、設置場所に対してスタジオ・モニターを最適化することのできるオート・キャリブレーション機能を備えたGLM(Genelec Loudspeaker Manager)です。

永井 「コントロール・ルームの調整はSONAさんとTHXのエンジニアさんに最終調整いただきましたが、ベースはGLMで行っています。エディット・ルームの調整はGLMのみで行いました。GLMを使うと、部屋特有の濁りがとれてすっきり聴きやすい音になるので、録りでもミックスでも音の判断に迷いがなくなりますね」

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▲コントロール・ルームと同様に、エディット・ルームでもGenelecのモニター・コントロール用ソフトウェアGLMが活用されている

 

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音の質感にまで徹底してこだわるのがKOJIMA PRODUCTIONSの創作スタイルですが、そこにはGLMも駆使して作り込まれたスタジオ・モニターの存在が大きいと感じます。あらためて、『DEATH STRANDING』シリーズのサウンドの聴きどころについて伺いました。

中山 「先ほどもお話ししましたように、ここでは本当に細部にわたりこだわって音付けをしています。ミックスや音量コントロールも含め、丁寧に作っているゲームです。石ころひとつが転がる音もよく聴けば、どんな意図が隠されているか読み取っていただけるでしょう。そういったところもぜひお楽しみください」

永井 「細かい環境音や効果音はたくさん付いていますし、素晴らしい音楽もいっぱい収録されています。ダイアログも、『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』の日本語はここで収録していて愛着があります。セリフはすべてGenelecのこのセンター・スピーカーでモニターしながら、聴きやすいように調整しています。もちろん、どんな環境でも楽しめるミックスを心掛けていますので、そのあたりを体感していただきたいですね」