567.1.4chDolby AtmosThe OnesGLM

洗足学園の前身となる「平塚裁縫女学校」が創設されたのは、いまからおよそ100年前の1924年。音楽大学としての歴史は1967年からスタートし、学内にはオーケストラや吹奏楽、合唱、室内楽といった様々な楽団が存在するほか、日本で初めてジャズ、そしてロック&ポップス、ダンスを学べるコースを設置するなど、多彩な音楽を学ぶことのできる国内最大級の規模を誇ります。

常に音楽業界で求められる人材を育て、各分野で活躍する卒業生を輩出している洗足学園音楽大学ですが、その音楽・音響デザインコースの教室として、新たに7.1.4ch Dolby Atmosイマーシブ・スタジオB305が開設されました。

「このスタジオを本格的な録音スタジオに変えようという話は、2019年くらいからありました。もともと学内にはいくつかのスタジオがあるのですが、ほとんどがアナログ系の機材が中心のスタジオだったんです。そこで今回は、MAを中心としたデジタルのシステムをここに導入しようということで、まず初年度はAvidのミキシングコンソールS6から導入を始めたんです。いわゆる音楽制作だけではなくてMAであるとか映像系のコンテンツ、それと近年はゲーム会社にサウンド・デザイナーとして採用される卒業生も増えているので、ゲーム・サウンドにも力を入れていこうということが背景にあります。初年度の段階からすでにDolby Atmosのスタジオを視野に入れていましたが、当時はまだ様子をうかがっていました。大きなきっかけとなったのは、2021年からApple MusicやAmazon Music HDでもDolby Atmosによる空間オーディオが始まったことで、“今後のことを考えて7.1.4chを導入するなら今だろう”と現在のシステムの導入が決定したんです」

独自の強みを生かしたイマーシブへの取り組み - 洗足学園音楽大学

洗足学園音楽大学・大学院 教授 音楽・音響デザインコース 森 威功 氏

こう振り返るのは、洗足学園音楽大学の音楽・音響コースの教授である森 威功(もり たけよし)氏。同コースでは作編曲、録音、そして映像制作・演出を主としたメディアコンテンツ制作の3つの專門分野がありますが、そのなかでもメインでこのスタジオを使用するのは録音専攻の学生だと話します。録音専攻で入学した学生は、まずアナログ環境を主に使用したステレオ・レコーディングで機材ひとつひとつの基本から学んでいくとのことで、7.1.4chのカリキュラムは3年生以上からを想定しています。

まだまだ録音の分野では比較的新しい技術となるDolby Atmosをはじめとしたイマーシブ・レコーディングですが、大学で学ぶことの意義について森氏は次のように話します。

「ひとつに大学全体としてキャリア支援の強化に数年前から取り組んでいるということがあります。録音専攻の学生のほとんどがエンジニアとしてスタジオへの就職を希望するのですが、この世の中の流れもありスタジオ自体が減少傾向にありますので、厳しくなってきています。もちろん、録音の分野にはスタジオ以外にもホール録音や配信などもありますし、そうやって目を向けていくと、やはりイマーシブ・オーディオの将来性は非常に大きく、学生のキャリアに直結してくるだろうと。教育機関である以上は、やはり学生の進路という部分は本当に重要なんです。実際にDolby Atmosのシステムをこの規模で導入している教育機関はあまりないようで、“ここで学んだ学生をぜひ弊社へ”という直接的なお言葉も頂いております」

こうした将来的なことも視野に入れて設計されたB305スタジオに採用されたのは、同軸構造を採用した3ウェイ・モニター・スピーカーであるThe Onesの8351と、サブウーファーの7370です。

独自の強みを生かしたイマーシブへの取り組み - 洗足学園音楽大学

メインのスピーカーには、The Onesの8351を導入。イマーシブだけではなく、サラウンドやステレオの再生でも8351Bを使用している。また、講師によっては以前から使用していたという1031をステレオのニアフィールド・モニターとして活用することもあるという

「当校ではこれまでも様々なスタジオでGenelecのモニターを導入してきました。それこそ、この部屋にある1031もそうですし、1032も他の教室に入っています。地下にあるアナログ系のスタジオでは、1035や8040も使っていますね。そもそも、録音の教員からは、リファレンスとしてGenelecのスピーカーを導入して欲しいとの要望が多いです。大学で扱う音楽のジャンルには様々なものがありますので、基本的にはニュートラルで、どんな音楽にも対応できるということはすごく大事な部分ですよね。業界標準ということはもちろん、やはり音質として考えた時に特別な色付けのない、解像度の高い音色ということを考えると、やはりGenelecになるのかな、と思います」

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洗足学園音楽大学では、これまでも様々なスタジオでGenelecのスタジオ・モニターを導入。写真は1035と8040が導入されたスタジオCR1

今回、このB305スタジオに8351Bを選択した理由を尋ねると、森氏は次のように語ります。

「まずひとつに、イマーシブを組むのであれば音の定位の面で有利となる同軸のスピーカーで組みたいということがあったんです。また、授業では複数の学生がこの教室に入って同時に音を聴くので、リスニング・エリアも広く、音響軸外でも良い周波数特性を持つスピーカーが必要でした。それと、イマーシブ対応のスタジオではありますが、ここではサラウンドに加えて2chも鳴らしますので、部屋のサイズにも十分対応できる出力も必要でした。そうした要望に対応できるスピーカーが、8351Bだったんです。実際に導入して聴いてみると、3ウェイ構造ということもあって低域までよく伸びた音の鳴り方で、スイートスポットも想像以上に広く取れている印象です。それと、GLMソフトウェアによるキャリブレーションができることも大きなメリットでした」

このB305スタジオでは、大学特有の教室という機能も兼ね備えています。だからこそ、直感的に素早く操作できるGLMソフトウェアの存在は不可欠だったと話します。

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GLMの魅力はその豊富な機能はもちろんのこと、直感的に操作できる分かりやすさや使いやすさにもあると森氏は話す。授業内容により様々なコンテンツを再生する必要のある大学にとって、GLMによるスピーディかつ正確なキャリブレーションは極めて重要な役割を果たしている

「このB305スタジオが一般的なスタジオと大きく異なるのは、教室としての機能も兼ね備えているということなんです。時には多くの学生がこの部屋に入って、その全員をスピーカーで取り囲む必要があるんですね。また、いらっしゃる講師の方によってスピーカーの配置が変わることもあります。つまり、スピーカーからリスニング・ポジションの距離が授業の内容によってその都度変わるということで、その度にスピーカーを調整する必要があるんです。だからこそ、画面の案内に従って簡単で正確なキャリブレーションを行うことができるGLMは必須だったんです。測定そのものにかかる時間や処理も本当に早いですし、リスニング・ポジションまで音が到達する時間や音量の差までがすぐに補正できます。しかも、イマーシブやサラウンドにも柔軟に対応していることや、異なるスピーカー・レイアウトを作成しておくと、グループ設定として即座に切り替えられることも大きかったです。学生としてはキャリブレーションというと難しい手順や時間がかかることを想像するのですが、ここで実際にGLMの画面を見せながら、こんなに簡単な手順と短い時間で、正確なキャリブレーションができるということを体験してもらえるという意味でも本当にありがたいですね。GLMは機能面はもちろんなのですが、画面を見るだけで直感的に操作できるその分かりやすさ、使いやすさという点も優れたツールです。また、クラウド・ベースで動作しているので常に最新のキャリブレーション・アルゴリズムを使えるし、GLM設置ファイルをクラウド上で管理することもできます。設定ファイルのバックアップとして活用できる点も、大きな魅力だと思います」

独自の強みを生かしたイマーシブへの取り組み - 洗足学園音楽大学

7.1.4chのDolby Atmosのほか、サラウンドの授業も行っているという洗足学園音楽大学のスタジオB305。授業に参加する学生の人数によってスピーカーの配置を広げたり、講師の考え方によってもスピーカーの位置が変わってくるため、頻繁にセッティングを変更することもあるという。そうした大学特有の環境でも簡単かつ短時間でキャリブレーションができるほか、グループを瞬時に切り替えることができるGLMの存在は必須だったとのこと

学生のほとんどは、入学後にこのスタジオでスピーカーによるDolby Atmosの音を体験するそうですが、そのほとんどが素直にびっくりしていると森氏は話します。

「みんな大体、部屋の中を歩き回ったりしますね。聴いた後のディスカッションで話を聞いていると“思ったよりも自然な音響だ”と言います。単純に頭の上から音が聴こえたり、方向性を持って後ろから音が聴こえてくると思っていたけど、それ以上の何かを感じているようです。コンテンツにもよりますが、“自分がステージ上にいて聴いているようだ”とか、むしろ自然な音響がたくさんのスピーカーで再現されているということに驚いているようですね」

洗足学園音楽大学には、実はこの部屋以外にも様々なイマーシブ・オーディオに対応したスタジオがありますが、その中でもこのスタジオB305は、イマーシブ・フォーマットについてはDolby Atmosに特化したスタジオとして設計されています。現時点では大学院の授業の一環としてDolby Atmosによるプロジェクトを行っているそうです。

また、クラシックやジャズなどの演奏技術を学べる学部から、劇伴やゲームなど商業コンテンツに特化して学べるコースまで幅広く設置するユニークな大学でもあります。そんな大学の特性を生かして、洗足学園音楽大学のジャズコースの学生の演奏をレコーディングして、Dolby Atmosで配信するという他にはない取り組みにも積極的です。2022年10月には収録したものをVOD配信、2023年1月にはライブ演奏をDolby Atmosでリアルタイム配信する試みを行います。そこには、演奏から録音、映像制作、配信までをカバーしている洗足学園音楽大学ならではの強みと、音楽教育に対する想いが関係しています。

「やはり当校独自の目線で、音楽大学としてこのイマーシブ・オーディオをどのように活用していくのか、と。この点に関しては、日本のパイオニアというと大げさかもしれませんけど、それくらいの気持ちで取り組んでいます。どのようなコンテンツがDolby Atmosで表現するのに向いているのか、そういった実験を行うことも含めてです。また、ミュージカルコースやオペラなどの舞台芸術もやっていますので、その分野での実験もできると思うんです。こうした取り組みができる音楽大学は多くはないと思うので、ただのアーカイブ以上のものを作っていきたいですね。そのためにも、まずは学生達にきちんと音を聴いてもらって、イマーシブ・オーディオにどれくらいの効果があるのか、ということと、将来の自分たちのキャリアにどのように繋がって行くのかを理解してもらうことが大事だと思っています」


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