上村洋一 : Genelecで表現される自然と人の関わりを示す「風景」

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水戸芸術館

水戸芸術館 現代美術ギャラリー(茨城県)の『道草展』で展示されているインスタレーション《息吹のなかで》を体験すると、おそらく多くの方が極寒の北国の海を目の前にするような……それでありながら世の中には存在しない、まるで空想の世界にいるような……そんな不思議な感覚を味わうかもしれません。

ブラックライトを片手に暗闇の中を進みながら目にすることができる、日本語と英語がランダムに入り混じった手書きのメッセージ。フィールド・レコーディングによる環境音とシンセで作られた機械音が絡み合いながら、鳴り響く音。美術と音楽、双方のフィールドから注目を集めるアーティスト、上村洋一氏の作品には、自然物と人工的に作られた物の境目を麻痺させるような、独特な世界観が広がっています。

「今回、道草展で発表した《息吹のなかで》は、かつてオホーツク海で聴くことができた『流氷鳴り』をモチーフにして作り上げた作品です。最初は流氷を見てみたいな、というくらいの気持ちで北海道の知床へ行ったのですが、実際に現地の方のお話を聞くにつれて、流氷がとてもエコロジカルな存在であることに気がついたんです」と、上村氏は作品作りのきっかけとなったエピソードを語ります。

上村洋一氏

「流氷は、はるか北の海からたくさんの植物プランクトンを連れてやってくる。それを動物プランクトンが食べて、さらにそれを魚が食べて、そして人間の営みが養われていく。冬になってまた流氷が貯まると、人間は漁をお休みする。すると、また海が豊かになって春へと向かって行く。このある種のエコロジーにとって、流氷はとても大事な物だということに気がついたんです。それともうひとつ、かつて流氷がたくさんあった時代、海を覆い尽くしていた流氷と海の間にある空気が押し出されて口笛のような音がする『流氷鳴り』という現象があったそうです。それがいまは、温暖化の影響で消滅してしまった。この消えてしまった流氷鳴りを、現地の方の呼吸や口笛、そして流氷のサウンドスケープと混ぜ合わせることで再現したいと思ったんです」

15分でひとまわりする作品の世界では、床に敷き詰められた不安定な砂による足元のなか、真っ暗闇のなにも見えないところで機械音とも自然音とも、はたまた人の声ともつかないような音が交錯。ブラックライトで目の前を照らすことで、初めて人々の記憶の中にあるかつての「風景」が文字として形作られていきます。やがてピンク色の光が部屋を包み込み、まるでかつてそこに存在していた物事を一瞬で忘れてしまうかのような、一種の虚無感すら感じることができます。

「自然っていうものを捉えた時、本当に自然だけの力で存在している物、というのは極めて少ないじゃないかな、と思います。例えば、今回の流氷にしても一見すると自然の流れの中で生まれていると感じますが、実はそこには人間が引き起こしている地球温暖化の影響も受けて現在の姿になっている。その意味では、人工的に生み出された現象とも言えるんです」

この曖昧な境界線を表現するために、音についても自分自身が意図する音作りを的確に再現できるスピーカーが欲しかった、と上村氏は話します。そこで選ばれたのがGenelecのスピーカーでした。上村氏は、本作も含むおよそ5年にわたり、音の表現のツールとしてGenelecを使い続けています。

「Genelecを初めて聴いた時、ものすごく感覚的な話にはなりますが、音の解像度とかキメの細かさを感じたんです。例えば環境音を電子音のように鳴らしたいという時があって、そういう時にGenelecは、自分が作った音の意図をしっかりと表現してくれます。それと同時に、素直なフィールド・レコーディングの音も再生できる。作品のひとつテーマに『人工でも自然でもない、曖昧な音』というのがあるのですが、Genelecのフラットなサウンドはとても自分にマッチしていると思います」

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意外にも東京藝術大学在学中に上村氏は絵画を専攻していたそうで、それと並行して音楽活動も行っていたと話します。ある日、この絵画と音楽の世界を結びつけることができないか、と考える過程で出会ったのがサウンドスケープだったそうです。「風景の中に入り込む」という現在の作品コンセプトとなるきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災だったと振り返ります。

「震災を経験するまでは、窓のようなところから風景が目の前に広がることだけを考えて作品を作っていました。しかし、あの震災を目の当たりして、人間の営みというのは自然、つまり地震や津波によってまったく違うものへと一瞬のうちに姿を変えてしまうことを、身を持って感じたんです。それ以降、人と自然、それぞれがどういうふうに関わり合って風景を作り上げるのか、ということを強く意識するようになったんです」

上村氏は、そんな自然と人の関わり合いを記録するためのフィールド・レコーディングを、「瞑想的な狩猟」と表現します。

フィールド・レコーディングの様子 : Photo by Takehito Koganezawa

フィールド・レコーディングの様子 : Photo by Takehito Koganezawa

「フィールド・レコーディングには、相反する要素が共存しているんです。まず、素材を録音する時は、その現地の人々の生活、記憶の中に積極的に入り込んでいきます。その一方で、いざ音を取るときは、動かずじっとその場にとどまり続けるんです。つまり、『動』と『静』のメリハリがすごくはっきりしているんですね。いま、まさに新型コロナウイルス感染症の危機にさらされている私達ですが、こうしたフィールド・レコーディングの特徴には、これからの私達の生き方のヒントが隠されていると思うんです」

上村氏の考え方は、Genelecの「サステナビリティ」という企業哲学にも、たくさんのポイントでリンクします。これからも地球環境を考える意味でも、上村氏の作品にぜひ触れてみてはいかがでしょうか。


プロフィール

上村洋一

Yoichi Kamimura

視覚や聴覚から風景を知覚する方法を探り、フィールドレコーディングによって世界各地の環境にアプローチし、そこで得た素材やコンセプトをもとにインスタレーション、絵画、サウンドパフォーマンス、音響作品などを制作している。

主な個展:Hyperthermia―温熱療法(NTT インターコミュニケーション・センター[ ICC]、東京、2019)、Temporary Ground(Marueido Japan、東京、2019)、クリテリオム82(水戸芸術館現代美術ギャラリー、2011)

主なグループ展:The Drowned World Anchor-沈んだ世界のアンカー-(Spiral Hall、2019)、普遍的な風景(国際芸術センター青森[ACAC]、2016)

ウェブサイト
www.yoichikamimura.com
Instagram
camyyu
Twitter
@yoichikamimura


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