モッテン・リンドベルグ - The Onesでさらに強化されたイマーシブ・スタジオ

イマーシブ・ミュージックのレコーディングの世界において、グラミー賞を受賞したサウンド・エンジニアであり音楽プロデューサーでもあるモッテン・リンドベルグ(Morten Lindberg)以上に黄金時代を築いた者はおりません。1992年に自身の制作会社、Lindberg Lydを拠点としてレコーディングのキャリアを開始したリンドベルグは、ノルウェー内外の作曲家やパフォーマー達を起用した高音質のレコーディングに特化したレーベル2Lを設立。この度、さらにその音質の水準を高めるべく、リンドベルグは新たにポストプロダクション・スタジオのモニタリング・システムをアップグレード。Genelecのスマート・アクティブ・モニターとウーファー・システムを用いた7.1.4環境を構築しました。

幼少時代からエレクトロニクスと音楽への情熱を育んだというリンドベルグ。10代の頃にあるひとりの年配のバイオリニストから2本のマイクロフォンとリール・レコーダーを見せられたことをきっかけとして、レコーディング・テクノロジーへの興味が開化。専門学校に2年間通い基礎的なテクニックを学び終えた頃、リンドベルグはすでに自身のレコーディングでアコースティック音楽にフォーカスし、低ノイズ・フロアの実現やレコーディングにおける解像度の改善といったことを実践するまでとなっていました。

キャリアを築くにつれ自身のレコード・レーベルである2Lが世界中の注目を浴びる中、リンドベルグは驚くべき(そして記録的な)28回にも及ぶグラミー候補のノミネーションを受け続け、ついに2020年、LUXでグラミー最優秀イマーシブ・オーディオ・アルバム賞を受賞します。

モッテン・リンドベルグ氏

リンドベルグ 「一度イマーシブ・オーディオを経験すると、ステレオに戻るのが本当に難しくなります。90年代はじめにレコーディング作業を始めた頃はステレオが唯一の概念で、ただそれだけに取り組んでいました。サラウンド・サウンドが登場したの2000年代はじめのことで、音楽制作に新たな展望が開けました。私たちがイマーシブ・オーディオの実験を始めた当初、ハイトの空間が加わることよって獲得できると期待したことは、単にディテイルや解像度のレベルが上がるということだけでした。つまり、楽器の演奏や音符流れを表現するためにどれだけの空間が確保できるか、キャンバスにコードの響きを描くために必要なサイズは……などといったことです。しかし、実際はそういう事ではありませんでした。ハイト成分によって得られたものは、エモーショナルな要素だったのです。サウンドスケープに3次元の空間を加えることによって、10倍ものエモーショナルな衝撃をリスナーへ与えることが可能になったのです」

新たにアップグレードされたリンドベルグのポストプロダクション・スタジオは、イマーシブ・オーディオの編集、ミックス、マスタリング用として設計されました。Dolby AtmosとAuro-3Dの両方に対応したモニタリング・システムは、The Onesシリーズで構成。まずはベース・レイヤーに設置された7つの同軸3ウェイ・モニター8351とそれぞれに加えられたアダプティブ・ウーファー・システムのW371。ハイト用には軽くてコンパクトな8341を4本用意。LFEにはサブウーファー7380に加え、120Hz以上の周波数帯域を確認する用途で、2ウェイ・ニアフィールド・モニター8320を7380の天辺付近に配置。これは流通前の最終段階となるマスタリングにおいて、LFEチャンネルの内容の確認を行うためのチェックポイントとして機能します。

リンドベルグ 「この部屋は私達が10年前にイマーシブ・オーディオを手掛け始めて以降、最初に設計したコントロールルームです。形状と設計は、中央にリスナーが位置するという典型的なステレオでの作業に特化した部屋とは違いがあります。左右のバランスが取れているということだけでなく、“前後”や“床から天井”のバランスも考慮に入れており、従来のものとはかなり異なっています。The Onesの同軸設計は、素晴らしいイメージングが得られることを実感しました。サラウンドだけでなくフル・サラウンドでもその実力を発揮するもので、そしてソースのディテイルの詳細を保持したまま空間の高さを拡張することができるのです。私たちが使用するすべてのThe Onesは、単体でも広範囲にわたるバンド幅を再生する実力がありますが、W371が加わることによってより意図して体感的かつ感触的な音の側面にリーチでき、音の振動に至るまでサウンドとして体感することを可能としたのです」

リンドベルグ 「私達人間の体は、全身が非常に洗練されたセンサーのシステムとして機能しており、体で体感する音楽というのは伝統的なオーディオの定義を覆すものです。W371では指向性のモードを切り替えることができるので、小さい部屋やなんらかの妥協せざるを得ない環境での作業に役立ちます。しかし、このスタジオのように広く音響が整備されているなど全体的なクオリティが高い部屋の場合、W371は標準的な設定での状態が最も開放的で自然な響きをもたらし、お腹にまで響くような触覚体験を実現します」

リンドベルグはGLM(Genelec Loudspeaker Manager)を利用して、モニタリング・システムの接続管理/キャリブレート/コントロールを行なっています。

リンドベルグ 「私達のリスニング・ポジションと作業空間を測定することによって、この特定の部屋に合わせた最適化が手際よくできるんです。GLMの最も優れている点として、ネットワークに接続するスピーカーの数やその設置、設定の状況に応じて臨機応変に対応できるということがあります。加えてGLMはモニター・コントローラーとしても機能し、全てのスピーカーにアクセス可能です」

ただし、経験や能力、優秀なテクノロジーがリンドベルグの卓越したレコーディングに明らかに必要不可欠な要素だとしても、彼は音楽制作における真の任務を見失うことは決してありません。

リンドベルグ 「私たちにとって完璧なレコーディングとは、聴く人の涙や笑いを誘うことがきるものです。エモーションこそ、すべてです」