TBS ACT2MA
GenelecDolby Atmos

"" TBSTBSTBS TBS ACTDolby Atmos2MAS360The Ones 8341Genelec

TBSグループ12社の合併により2021年に設立された日本最大級の総合プロダクション「TBS ACT」は、同グループのテレビ番組を中心とした映像コンテンツの制作にまつわる様々な専門サービスを提供しています。その中で「音の最終段」を司るMA部門に新たに誕生した2つのMAルーム。同社ポスプロ本部MA部の小田嶋洋部長は、その経緯を次のように語ります。

tbs-act

TBS ACTに新たに新設された2つのMAルームについてお話をうかがった面々。写真左からポスプロ本部 MA部 部長 小田嶋 洋氏、ポスプロ本部 MA部 真嶋祐司氏、ポスプロ本部 メディアコネクト部 山下諒 氏

小田嶋「TBSグループ内の技術会社である弊社には、グループのコンセプトとして放送から配信へと進出し、オリジナル・コンテンツを世界に発信するという大きな目標があります。そのベースとなるポスプロのスタジオには今後、Dolby Atmosといったイマーシブ・オーディオによる付加価値が欠かせないと考えました。実績としてはまだまだですが、そこに向けてアプローチするツールはしっかりと持っていなければ勝負になりません。拠点の統合という背景もあり、今年(2025年)2月にMAルームを2部屋新設しました。TBS放送センターとは隣同士にあり、がっぷりタッグを組んで業務を行っています。主に、TBS放送センターがバラエティ、こちら赤坂パークビルではドラマを扱うことが多くなっています」

新設されたMAルームは。いずれもシックで落ち着いた印象を醸し出します。ポスプロ本部 MA部の真嶋祐司氏は、新設スタジオのコンセプトや施工にあたり留意したことを次のように説明します。

真嶋「心掛けたのは "現場のエンジニアたちにとって使いやすいスタジオ" です。例えば、スピーカーの音の抜け具合を良くするために遮蔽物をなるべくなくしたり、家具類の高さにも気を配りました。スタジオの施工をご担当いただいた日本音響エンジニアリングさんとは、部屋の形から家具までいろいろとご相談させていただきました。元々ここには編集室がありまして、それをなくしてMAルームを新設するにあたり、限られたスペースで部屋数や大きさをどうするかゼロベースで考えていきました。同じ面積の2部屋とすることもできましたが、今回は大小2つの部屋を造ることにしたのです。後方にソファを配置し、クライアント様をお迎えしたプレビューにも適した広めのMA-4。そして隣のMA-5は少人数の作業向けで、前段の仕込みも想定しています」

MAルームの新設にあたりプロジェクト・マネージャーとして総合指揮を務めた山下諒氏は、スピーカー選定の経緯をこう振り返ります。

山下「Dolby Atmosに関して弊社は後発ですので、他社さんのスタジオ事例を参考にさせていただくと、最も声に挙がるのがGenelecのスピーカーでした。多くの採用事例があるという実績、そしてもちろん各社との比較も行った上でこの度の導入に至りました。部屋のサイズに適した音圧で機種を選びましたので、MA-4とMA-5ではスピーカーの口径は異なりますが、基本的には7.1.4のDolby Atmos Homeを構築できる仕様となっています。MA-4では通常のステレオ2ch作業を行うにあたってラージ・モニター相当の音圧を備えるモニターが欲しいという現場からの要望があり、候補に上がったのがS360でした」

小田嶋「ドラマ担当のエンジニアにもS360でテスト試聴してもらったところ、好感触が得られましたので、L/C/RにS360の導入が決まりました」

多くのプロフェッショナルの現場で使用されることに基づく信頼性、そしてサウンドの双方が評価されGenelecの導入に至ったのです。

tbs-act

MA-4のL/C/Rに設置されたS360。H530×W360×D360mmというサイズでありながら、118dBというラージ・モニター相当の音圧を備える

Genelec

運用開始からまだ間もない両MAルームですが、この部屋で作業するエンジニア諸氏が口を揃えて言うのは「定位が明確で分かりやすい」ということ。「期待どおりのサウンドが得られている」と真嶋氏は手応えを語ります。

真嶋「Genelecの良さは、やはり音の定位が分かることでしょう。音がどこから飛んできているかが明確に分かることは重要です。また、Genelecは音の硬さや柔らかさもはっきりしているという印象があります。ここがGenelecのスピーカーらしいところで、音の質感を整えるという意味でも最適なスピーカーです」

小田嶋「先日いらした方は、定位も含めてクリアな音が再生できているということで "きれいな音" とおっしゃっていました。Atmos対応ということで吸音する方向のスタジオなので、定位もよりはっきりと感じられています」

真嶋「私たちは素材の音を最終段に持っていくという作業をしているわけですが、そこにはリファレンスとなるスピーカーの存在が不可欠です。低音から高音までしっかり出ること、それぞれがどれくらい出ているのかが分かること。それらが明確で、音の解像度が高いスピーカーを探した結果、Genelecに行き着いたのです。ここで仕上げたものは、最終的に多くのお客様がご覧になるテレビのスピーカーの再生でも狙ったとおりに出ていると思います。他ブランドのスピーカーを使っている既存のMAルームでは、そこで作った音質とテレビで聴いた時の音質はバランスのところで差異が出るものなのですが、我々はそこを脳内で補正しながら作業していました。GenelecスピーカーがあるMA-4やMA-5で作業すると、もちろん音質そのもののクオリティのレベル差はあるにせよ、バランスなどはミックスした通りにテレビから出てくるのでGenelecでのモニターは非常に安心できます。実際に使ってみて、そんな印象を持っています」

また、小田嶋氏はGenelecのサウンドが持つ信頼性について、あるエピソードを話してくれました。

小田嶋「ドラマの場合は、エンジニアのほかに音響効果や選曲の方もいらっしゃって、主に3人で音を作ることが多いのですが、あるドラマの作業を途中の回からMA-4でやることになったんです。ドラマのミックスはセリフや効果音、音楽などの素材を微に入り細に入りコントロールするもので、3人ともすごく気を遣って作業しています。スタジオの運営側としてはちょっとドキドキしていたのですが(笑)、音にうるさいこの人たちがスッと作業に入って " 大丈夫だね" と、完パケまでやっていただけたことには、ちょっと驚きました」

The Ones

山下「Genelecのスピーカーは私も長らく聴いてきて、音の傾向や特性はなんとなく承知しているつもりです。同軸モデルのThe Onesを聴いた時もそう感じたのですが、S360はGenelecらしい系譜を感じさせながら、これまでとは異なる印象を与えるモデルです。すごく素直なスピーカーで、音が速い。いわゆるラージ・スピーカーは置けないけれど、相応の音圧が求められる時、その選択肢は限られます。S360は、こうした要望にも見事に応えるすごくいいスピーカーだなと思いました」

小田嶋「Genelecに対する従来のイメージとして、ダイナミックである反面、正直なところちょっと耳に痛いと感じることもありました。でも、S360や8341A等など現在のモデルではそのイメージがいい意味で変わっていると思います。例えば、イマーシブ環境では音が飛んできすぎてしまうとスピーカー間の繋がりが悪くなってしまうんですが、その点8341Aを擁するThe Onesは非常に自然な再現をするのでイマーシブでの音の繋がりが想像以上にいいですね」

tbs-act

MA-4のハイト・チャンネルには8341を採用。「非常に自然な再現をする」(小田嶋氏)とその特徴を話す

真嶋「また、"低音は定位を持たない" とよく言われますが、エンジニアによっては "あそこから鳴っているのが分かるよ" という人もいます。そこで、サブウーファーもメインのL/Rと同じ位置に配置し中心から聴こえるようにしました。ちなみに、2台のサブウーファーは音を分けているわけではなく、同じ音が出ています。MA-4は7370が2台あることによって抜群に余裕がありますね。一方、MA-5には7350が2台ですが、小さいながらもかなりパワフルで、体感的にも "こんなに鳴るの?" と、驚いています」

tbs-act

MA-4に設置された2台の7370。それぞれは同じ信号を入力しているが、2台あることで十分に余裕のある低域再生ができていると評価する

MA-4では、2ウェイのS360と同軸3ウェイの8341と異なる構造のスピーカーを組み合わせたシステム構築を行っていることも見逃せません。一般的にこうしたセットアップはグループ・ディレイの問題などから難しいものの、GenelecはそもそもGLM 5 ソフトウェアによる設定で2ウェイ・モニターと3ウェイ・モニターを混在させることを可能としています。この点はもちろん、強力なキャリブレーション機能も備えるGLMソフトウェアの存在も、Genelec導入の大きな後押しになったと話します。また、ケーブルの引き回しの観点から、すべてのスピーカーをAES/EBUデジタル接続を行っています。

一方、隣のMA-5はMA-4よりもコンパクトな空間となっており、フロント/サイド/リア/ハイトはすべて8320で統一され、プリ・プロからファイナル・ミックスまでの作業で活用されています。

tbs-act

少人数の作業向けとなるMA-5。スマート・アクティブ・モニターの8320とサブウーファーの7350でDolby Atmos環境を構成

真嶋「MA-4とMA-5で部屋を移っても違和感なく作業できるようGenelecで統一した2つの部屋は、映像と音声を同時プレビューできるように設計しています。Atmosも含め、部屋によって印象が変わってしまうとよくありません。2つの部屋でトーンを合わせる必要があったのです」

こうして新たなスタートを切ったTBS ACTの2つのMAルームから、どんなコンテンツが発信されるのでしょうか。今後の展望についてお三方にお聞きしました。

小田嶋「冒頭にもお話ししましたように、TBS発のコンテンツを世界へという目標が根幹にあり、Dolby Atmosに対応したコンテンツも含め、その技術力やスキルを高めて挑戦していきたいと思っています。TBSはかねてより、ドラマなどストーリーものに強みがあります。そこをぜひ、音のほうからもプッシュしていきたいですね」

真嶋「私もまだ現場を持っていますが、仕事ではあるけれど楽しみも忘れない — そんな遊び心を持ってこのスタジオを使っていきたいですね。ドラマにしても、セリフと効果音と音楽という素材はAtmosでより面白くなるはずで、視聴者の皆さんをあっと言わせるようなコンテンツを作っていきたいと思います」

山下「Dolby Atmosも普及してきているようで国内ではなかなかコンテンツが追い付かない現状で、発展はこれからだと思います。弊社のこうした取り組みをご紹介することで、普及の一助になることを願っています」