Genelec 8380Aをメインとする、将来を見据えた新MAルーム - IMAGE STUDIO 109
IMAGE STUDIO 109のポスプロ事業
創業間もない1988年にスタートしたというIMAGE STUDIO 109のポストプロダクション業務。手掛けるプログラムの95%がCMで、テレビ・Web・モバイルサイトなどに展開する広告映像がメインとなるそうです。そうした様々な映像に付随する音声を整えるのがMAの役割ですが、同社デジタルプロダクション事業部のMA課長でチーフミキサーの佐藤悠氏は、CMにおける音の変化をこう語ります。
佐藤 「やはりラウドネス基準が2012年に適用され、ダイナミックレンジが広くなった分、表現の幅も広がってきました。例えば、VUメーターの時代には難しかった“ドーン”という地鳴りのような低音も表現できるようになったんです」

そうした表現の可能性を日々追求する佐藤氏らが腕を振るう、同社第3のMAルームがMA-3。足を踏み入れた途端、思わず声が出てしまうほど明るくて快適な空間が広がっています。
佐藤 「3つ目のMAルームをつくろうという構想はかなり前からあったのですが、人員、スペース、スケジュールなどの都合でなかなか前に進まなかった経緯がありました。ただ、ここ数年で若手が順調に育ってきたことやフリーの方たちがいらっしゃることが増えているのを踏まえると、これまでの2部屋では逃してしまうチャンスも多いと、5年ほど前から計画を本格化し、ようやく完成にこぎつけることができました」

この度のMAルームの新設。同課の林恭睦氏は、機材面のコンセプトをこう説明します。
林 「システム構成の面ではMA-1、MA-2という既存の2部屋と同じ作業ができることを大前提とする中、今回のMA-3は編集室を改修したためスペースの制限があり、コンソールレス(大型の卓を入れない)という選択は、109にとって一つのチャレンジでした」
MA-1とMA-2にはSSL Duality delta 48chが導入されていますが、新しいMA-3ではAvid ProToolsのフィジカル・コントローラーをチョイス。2台のAvid S1とディスプレイが並ぶ“卓まわり”は非常にすっきりとした印象です。
そして、この部屋の特徴である内装・インテリアについてはこんなアイデアもあったとか。
佐藤 「既存の部屋は、いい意味でダークでクラシックな雰囲気なのですが、女性や若手のエンジニアからは“もっとポップな内装もいいのでは?”との意見もありました」
林 「佐藤がサーファーなので、海の家みたいにしようという話もありましたね(笑)」
同課の松山修平氏が作った3Dイメージを基に出来上がった内装は、カジュアルで爽やかな雰囲気に。なお、ゲスト用のソファがひな壇になっているのは各部屋共通の仕様で、後方からでもディスプレイやモニター・スピーカーを観やすく、聴きやすくする工夫です。
林 「私自身もスタジオづくりに立ち上げから携わるのは初めての体験でしたが、音響設計でお世話になった日本音響エンジニアリングさんの力をお借りして、いい部屋が出来上がりました」

Genelecを選んだ理由
新設されたMA-3には、8380Aが日本の商用スタジオとして初導入されることとなりましたが、そもそもGenelecを選んだ理由には林氏が常々感じていた信頼が理由の一つにあります。
林 「大手の音楽スタジオに行くとよく見かける存在で、流通している音楽の多くがGenelecスピーカーを通して制作されていると認識しています。多くの方に使われているということは信頼できるブランドだということでしょう。個人的には通っていた専門学校でもGenelecを使っていて、フラットで音像がちゃんと分かるスピーカーという印象を持っていました」

佐藤 「Genelecはポスプロの現場でもよく見かけます。スタジオ・モニター・ブランドとして長年の歴史がありますし、いまや誰もが知っているブランドですよね。Genelecはまた、サラウンドに対応したスタジオでのシェアも高いという印象があり、実はそうした点にも注目していました」
では、当スタジオのポスプロ業務において、モニター・スピーカーに求められる役割とは何でしょう。
佐藤 「ポスプロの現場では、やはり正確な音というのが大事なポイントです。音楽と違ってセリフが大きな要素を占めていますが、その解像度や倍音の表現を見極められるスピーカーを求めていました」
MAルームの新設が決まり、作業の核となるスピーカーの選定が始まったのは2025年9月だったと林氏は振り返ります。
林 「スピーカーは本当にたくさんのモデルを試聴しました。候補がGenelecを含めて3つくらいに絞られたとき、当初はThe Onesシリーズを聴かせてもらおうと、赤坂にあるジェネレックジャパンの試聴室“エクスペリエンス・センターTokyo”に課の先輩と二人で伺いました。すると、8380Aという新しいモデルがちょうど入ってきたところで、タイミング良くこれも試聴できたんです」
この出会いに「ご縁を感じました」と言う林氏は、その際の所感をこう語ります。
林 「2chステレオのモニター・スピーカーでこれまで体感したことのない、非常に位相が良いロー感、低音を感じ、僕はその鳴りに一目惚れしてしまいました。同行した先輩と帰り道に“なんか他のスピーカーと比べて別格でしたね”とお話ししたのを憶えています。そこで、今度は課の全員で“エクスペリエンス・センターTokyo”に足を運び試聴しました」
そのときの印象をお二人は……。
佐藤 「林たちから“1回聴いてみてください”と言われた8380Aは確かにものが違って、みんながザワザワするのも頷けるスピーカーでした。その印象を一言で言うと、“しっくりくる音”です。僕にとってのリファレンスは既存の2部屋に導入されているメイン・スピーカー。低域と中域がしっかり出ていることが前提で、新しいモニターもなるべくそれに近いものを選びたいと思っていました」
リファレンスで培った耳とモニターの関係性を崩すことなく8380Aを導入できたと佐藤氏。異業種からこの業界にきたという松山氏も、既存のモニターとの共存についてこのように話してくれました。
松山 「僕はまだ経験が浅く、ほぼ109の音で育ってきましたので、やはりMA-1とMA-2のリッチな音がリファレンスとなっています。8380Aはそれとは別ものでありながらも別格という印象で、キャビネットも大きくて立派だし、音を浴びる感じも良くて、候補の中ではこれがいちばんいいなと思いました」

運用し始めて気付いた8380A導入のメリット
オープンからまだ間もないMA-3ですが、実際の運用の中で気付いた8380Aの特徴やメリットとは何でしょうか。
林 「音の重心がすごく分かりやすいですね。例えば、ナレーションをEQなどで立たせるポイントも探りやすい。それは8380Aの位相の良さもあると思いますが、意図したとおりに鳴ってくれるからイメージが掴みやすいんです。ここでミックスした音源をテレビやスマートフォンなどいろんな環境に持っていっても思ったとおりに鳴ってくれる。それは、いいモニター環境でなければできないことです」
松山 「ベース・ノイズ(撮影現場の環境音や機材が発する雑音など)の繋ぎや、その他のノイズも繊細に分かるようになりましたね」
佐藤 「解像度が良すぎて、既存の2部屋ではそれほどではなかったリップノイズが気になってしまうこともあったりして、面白いなと思いました(笑)」
IMAGE STUDIO 109で手がけるコンテンツの場合、エンド・ユーザーが聴く環境も千差万別です。不特定多数のリスニング環境が想定される中で、より微細な音や変化が掴めることは、モニター・スピーカーにとって重要な要素です。佐藤氏は8380Aを「醤油をちょっと入れすぎたのが分かるスピーカー」とも表現し、微妙な変化やニュアンスもしっかり伝えてくれるモニターであると評価します。
佐藤 「スイートスポットが広めなのもいいですね。CMのディレクターはディスプレイの前にいたり、後ろにいたり、センターにいないことも多いんですよ(笑)。部屋のどこでもしっかりと聴こえるのも、やはり指向特性が優れているからでしょう。音像や音の輪郭がよく見えるのもいいですね」

佐藤氏はまた、エンジニア諸氏の大事な耳を守る観点から、次のように指摘します。
佐藤 「導入してみて分かったことで、僕がいちばん大きいと思ったのは耳が疲れないことです。CMなのでセリフや音楽もあれば派手なSEも入りますが、長時間にわたって耳が疲弊することなく作業できるのは僕らとしてもありがたいこと。中高域が尖っていたり、聴き疲れするスピーカーも実際にあるんですよ。8380Aは、みんなの耳に優しい環境をもたらしてくれるという意味でも、いい選択だったと思っています」


スタジオの将来を見据えたチョイス
今回IMAGE STUDIO 109が8380Aを導入したことには、ポストプロダクションとしての将来を見据えた選択だったことも大きく関係しているようです。
林 「先ほど佐藤がサラウンドに対応したスタジオについても少し触れていたように、将来的にはスピーカーの多チャンネル化を視野に入れていまして、壁や天井には増設するスピーカーのための配線も施しています。GenelecのスピーカーであればGLMも活用してスムーズにサラウンドや3Dオーディオに対応できます。また、2ウェイ・システムも混在したシステムが組めるなど、自由度が高いことも魅力でしょう。そんな将来性が担保されているのもGenelecを選んだ理由になっていますね」
松山 「モニター・スピーカーにはその時々のトレンドもあるかもしれませんが、Genelecはあまり古くならない音なんじゃないかと感じています。また、Genelecでマルチチャンネル環境を構築することができれば、CM以外のサラウンド・コンテンツなどに取り組む際もスムーズに慣れることができるのではないかと思います」
佐藤 「導入に際してアンケートを取ったところ、若手のエンジニアに“Genelecがいい”という意見がすごく多かったんです。これからの世代が仕事をしやすいモニター環境にすること、彼らがいいと感じる機材を選ぶことも将来性に繋がると思っています。僕はミーハーなので、まだ出たばかりのスピーカーを日本のスタジオで初導入する、ということにも惹かれましたが…(笑)。あと、このビジュアルに僕は惚れちゃったんですよ。最近のラージにはない、堂々とした存在感がある。サイズ感も含めて、見た目に惹かれた部分はありました」
林 「僕もこのビジュアルは気に入っていて、8380Aで新たに採用された三角形のバスレフポートもかっこいいな、と思いました。見た目の良さも、作業するエンジニアのモチベーションを上げる要素かもしれませんね」

GLMの活用でより理想的な出音を
また、IMAGE STUDIO 109のサウンドをより理想的なものとする際に大きな力となったのがGLM(Genelec Loudspeaker Manager)です。
林 「GLMのキャリブレーションはとてもいいシステムだと思います。MA-3を担当いただいた日本音響エンジニアリングさんとのやりとりでも、GLMを活用することで、まずは基準を自分たちの中で定めることができますので、速やかなコミュニケーションをとりながら調整を行うことができました」
佐藤 「ルーム・アコースティックだけではなかなか追い込めないところも、GLMを活用することでより理想に近い出音が作れると思いました。しかも、使い方がシンプルで非常に手軽なのがいいですね。活用の仕方としては、測定値にあまりとらわれず、自分たちの耳に気持ちいいところで作るのもいいのかなと思います」

多様なメディアに対応するサラウンド化へ向けて
最後に、今後の展望についてお話しいただきました。
佐藤 「テレビのサラウンドはなかなか普及しない現実がありますが、最近はスマートフォンがイマーシブで聴けるようになったり、サブスクリプションでDolby Atmosを楽しめるコンテンツが出てきたり、少しずつそうした環境も求められています。近い将来、そんな作業を通じて若いエンジニアたちの経験が増えていけばいいなと思っています」
林 「僕が今、個人的に注目しているのが映画館や空間オーディオです。上映前に流れるCMーーーいわゆるシネアドが、映画館で流すことを前提に制作されるのであれば、サラウンドや空間オーディオで制作することを視野に入れやすいと思いますし、実は地上波も地デジ化に伴って5.1ChでCMを搬入することが可能なんです。現状はステレオでのCM作品が圧倒的大多数ですが、様々な媒体のさらなる発展により、“サラウンドや空間オーディオのCM作品がメジャーになる”という未来も、もしかしたらやってくるかもしれません」
松山 「僕は個人的な展望ですが、このスピーカーで自分の音に対するリファレンスを作っていきたいですし、また今後サラウンドに対応したときにはそうした技術も吸収したいですね。そんな将来にワクワクしています。まずは、この8380Aでのステレオ環境を軸に、ここを訪れる皆さんに“いい出音だね”とおっしゃっていただけるようにしていきたいですね」
IMAGE STUDIO 109
撮影・編集・配信まで、高品質な映像制作サービスを提供する、総合映像プロダクション。最新機材と設備を完備し、ライブ配信や字幕制作、データ変換にも対応。オンライン送稿やホテル向け放送など業界特化型のソリューションも展開し、クリエイティブから技術サポートまでをトータルに支援する。
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