大阪・関西万博でGenelec Smart IPが広げた「音」体験の可能性

クラゲ館では予約不要で創造楽器や遊具を自由に触れることのできる地上の「いのちのゆらぎ場」と、地下に用意された予約体験スペース「いのちの根っこ」の2つのスペースが用意され、この地下スペースの「わたしを聴く」と「わたしを祝う」に、GenelecのSmart IPが使用されました。

この「いのちの根っこ」の特徴は、視覚的な演出は最小限とし、来場者自身の感覚を研ぎ澄ませながら音を全身で感じることのできる場所であることをコンセプトとしていることです。万博では180以上のパビリオンが展開され、150以上の国、地域、国際機関が参加しましたが、その中でも極めて貴重な「音」にフォーカスした展示となります。このクラゲ館のプロデュースを担当したジャズ・ピアニストの中島さち子さんは、コンセプトについて次のように話します。
※クラゲ館に込めた想いについての中島さち子さんのコメント全文はこちら
GenelecのSmart IPをはじめとする音響技術は
多様ないのちの中へ身体ごと入っていくような体験を
見えないところから支えてくれていたと思います
中島「クラゲ館では、音を単なる展示の "演出" ではなく、自分自身や他者、そして世界に存在する多様な "いのち" に耳を澄ませ、感覚をひらき、さらに自ら音を生み出し、誰かと響き合うための大切なメディアとして捉えていました。その意味で、予約ゾーン『わたしを聴く』は、クラゲ館における音の体験のひとつの核でした。
私たちは普段、驚くほど多くの音に囲まれて生きています。しかし、そのほとんどを意識して“聴く”ことはありません。『わたしを聴く』では、まず立ち止まり、耳を澄ませることから始めます。自分の内側にある音、すぐそばにある小さな音、そして遠く離れた世界の音へと、少しずつ意識をひらいていくような体験を目指しました。
そこで大きな役割を担ったのが、フィールド・レコーディングの第一人者・柳沢英輔さんが世界各地で収録してきた音です。これらの音を単なるBGMや効果音として使うのではなく、その音が本来持っている微細な質感や奥行き、揺らぎまで、できる限り損なわずに身体で感じてもらいたいと考えました。
その体験を支えたのが、久保二朗さんらによる空間音響設計です。音が“前から聞こえてくる”のではなく、遠くから近づいたり、頭上や背後を通り過ぎたり、ある場所ではごく小さな気配として現れたりする。場所によっても聴こえ方はまったく違います。音の位置や距離、広がりそのものを含めた音場の中へ身体ごと入り込み、複数の土地の瑞々しい音が夢洲という土地で重なり合い、“まるで本当に山や川のほとりにいるように、響きが全身を揺らす”。そんな空間をつくりたいと思っていました」
世界に耳を澄ませれば、これまで気づかなかった多様ないのちが聴こえてくる。そして自分もまた、その世界をつくっているひとつの音である。生きるとは音楽である。クラゲ館全体を、さまざまな身体や感覚を持つひとりひとりの存在や行為によって絶えず揺らぎ続ける、"大きな「いのちの楽器」" のような場所にしたい。音には、その思想を体現する非常に重要な役割があったと思います」

楽曲の詳細を伝えたいと考え
Genelecを選びました
そのなかでGenelecを使用した『わたしを聴く』では、その音が存在していた場所の中に入り込むような没入感に溢れる体験が求められました。
中島「多数のスピーカーを使う目的は、単純に大きな音を出すことではありません。むしろ逆で、小さな音を小さなまま、しかし確かな存在感をもって、空間のさまざまな場所へ自在に立ち上げることが重要でした。私たちがつくりたかったのは、単に "高音質な空間" ではありません。遠くの鳥や虫の小さな気配に耳を澄ます。川や森の中にいるように音に包まれる。足元や身体からも、その世界の揺れを感じる。そして、自分自身もその音の世界の一部になっていく。音がスピーカーから鳴っていることを忘れて、空間そのものが呼吸し、生き、揺らいでいるように感じられること。GenelecのSmart IPをはじめとする音響技術は、そうしたクラゲ館の "音の海"、あるいは多様ないのちの中へ身体ごと入っていくような体験を、見えないところから支えてくれていたと思います」
クラゲ館地下『いのちの根っこ』は、『わたしを聴く』という「感覚体験」「五感を研ぎ澄ます」をテーマとした暗闇のホワイエ・エリア、そして『わたしを祝う』という「創造性の爆発」をテーマとした360度映像体験の2つのエリアで構成されました。『わたしを祝う』では、毎日毎回異なる即興生演奏もあり、映像の中の空間的な音と毎回ランダムで選ばれる祭り・郷土芸能の音たち、そしてその場で生まれる即興生演奏の音たちが複雑に絡み合い、動く立体的な音を生み出していました。『わたしを祝う』PAチームを率いた株式会社ローラーズの井口寛さんは、そもそも今回のクラゲ館で使用するスピーカーとしてGenelecのSmart IPを選んだ理由を次のように話します。
井口「私がサウンド・デザインを担当したわたしを祝う』は360°の円形シアターで、2種類のスピーカー群で構成されています。ひとつは録音されデータ化された音源を出力するスピーカー、もう一方は場内のステージでライブ演奏された楽音を拡声するスピーカーです。前者の方で使用したメインのスピーカーにSmart IPを選びました。円周上に4430を14本、天井に4420を10本、サブウーファーは7050Cを天吊りで7本設置しています。クラゲ館の重要なテーマ曲『いのちの旅』をどう聴かせるかを重要視していて、同館が掲げた "共創" がそのまま曲の聴取体験に繋がれば良いな、と考えていました。人間って同じ音を聴いても、決して同じように聴いていないと思うんです。無意識の内に聴きたいように聴いているというか......全員に等しく聴かせることは難しいと思っていて、むしろ聴きたいように聴いてもらった方が良いと考えていました。だから、曲の要となるピアノは均一に鳴らしながら、他の楽音は360°方々から聴こえてくるように配置しました。その他に、世界各地のお祭りの映像に付いている音も元々はステレオ音源でしたが、全方位から聴こえてくるよう各スピーカーに振り分けています。楽曲や祭りの世界に入り込むような感覚を来場者に感じてもらえるように、Genelecスピーカーを活用しています。
録音スタジオで使われるモニター・スピーカーとライヴ会場などで使われるPA用スピーカーは、設計の意図が違うというか、前者は音をどれだけ正確に聴けるか、後者は音をいかに聴取者に届けられるかで考えられていると思っています。今回は、楽曲の詳細を伝えたいと考えたので、Genelecを選びました。また、テーマ曲の録音とミックスをする環境に近い状態を現場にインストールすれば、制作側と来場者の間に誤解が生じないだろうとも考えていました。最終的なミキシングも現場にProToolsを持ち込んで行ったのですが、スタジオで聴いている感覚との齟齬がなく、意図した通りになっていたと思います」
合計で24台ものメイン・スピーカーが採用されたシアター・エリアの『わたしを祝う』ですが、こうした数多くのスピーカーを使用するケースにおいて一括してシステム管理ができるSmart IPは、長期間の運用を想定する大規模なセットアップにとって非常に最適な選択となります。
井口「Smart IPは、管理面の利便性が高かったです。接続されている全てのスピーカーがSmart IPマネージャーから見えるようになり、個別に音量調整やEQなどがかけたれたり、グループ管理ができたりします。シアターは私とGenelecの技術スタッフとでSmart IPマネージャーを使って下地となる調整を行い、PAミキサーの方で日々入れ替わる音響オペレーターが各々の音作りを行えるようにしていました。あと、ミキシング・ルームはシアター外にあったので、スピーカーに過大入力がされていないかといったことなどもひと目で確認できたことは便利でしたね」
Smart IPは施工をシンプルにできますし、
離れても音の明瞭度が失われません
一方のホワイエ・エリアを担当したのは、立体音響を中心とした特殊システムのコンサルティングや音響制作を行う株式会社アコースティックフィールドの久保二朗さんです。ここでは、合計16台の4420Aとサブウーファーの7050Cが採用されましたが、その音響設計について次のように振り返ります。

久保「ホワイエ・エリアは細長い形状の部屋となりましたので、これをひとつの立体音場にまとめ上げる必要がありました。そのための工夫として、2つのエリアに分けてそれぞれに8chのキューブ配置を採用しています。こうすることで、2箇所のエリアでそれぞれが一体化する立体音像を生成でき、さらに外側のスピーカーだけを使って長い長方形の全体エリアを作ることができるので、大きな音像移動や空間全体をまとめる役割を与えることができます。
LANケーブルで電源をとることができるSmart IPは施工をシンプルにできますし、小さくても音の遠達性が良いので多少離れてもGenelecのスピーカーは音の明瞭度が失われません。この性能に助けられました。スタジオではモニター・スピーカー、展示ではPAスピーカーという常識にとらわれず、さほど広くないスペースで音質を重視した繊細な音場の作品をインストールするのであれば、展示においてモニター・スピーカーを選択するという判断も必要だと思います」
クラゲ館のプロデューサーである中島さんの想いとそれを具現化するための音響設計。GenelecのSmart IPによりまるで音が収録されたその場所にいるかのような没入感を実現したクラゲ館、来場者から「万博内でも屈指のパビリオン」としての評価も得るなど非常に大盛況のうちに幕を閉じました。

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